前日の大雨から、出番を待っていた秋風が高い空を連れてきた。
今日は彩雲祭(あやぐもさい)。地元にある和歌山県立新宮高等学校の文化祭へご入居者さま4人と付き添いスタッフは出かけた。見学させてもらったのは、琴の演奏、合唱部、書道部のパフオーマンス。

暗幕で囲まれた講堂に、全生徒さんが椅子に座り鑑賞している。

舞台だけに照明があたり、舞台に立つ発表者の緊張が後席にも伝わってくるようだ。そんな彼らに声援と拍手を送る生徒さん達。いやー、若い人のノリっていい。制服姿の生徒さんが眩しく見える。
この日、文化祭見学に至ったきっかけの一つは「孫の通う学校の文化祭に行ってみたい」という、あるご入居者さんの呟きからだった。

このお孫さんは当日、琴の演奏を発表した。
施設では、日頃より、買い物や外出で地域に出かける機会を持っているが、これまで地域の学校に出かけることはなかった。
ご入居者Hさんの一言から・・・
「高校生ならではの生き生きとした姿をみてエネルギーをもらおう!」
「地域で介護を必要とする高齢者のことを生徒さんに知ってもらうきっかけにしよう!」
をねらいとし、文化祭見学の企画を立てた。
企画者は当施設スタッフであると同時に、こちらの高校に子供さんを通わせる保護者でもある。生徒ごさんが担任の先生に、入居者さまの呟きとこのスタッフの想いを伝えたことが実現の糸口となった。
にぎわう文化祭で、車椅子を使用する利用者さんの見学にあたり、駐車場の確保、舞台見学の席の確保をお願いし了承いただいた。そしてせっかく普段接点のない学生さんの集団場所へお邪魔するので、車椅子を押してもらったり、会場案内の協力をお願いし、これについても有難いことに了承をいただいた。
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杖歩行の利用者さん介助の際、誘導するペースが速くちょっと焦ったけど、生徒さんに手を握ってもらい足並みをそろえようと歩くうれしそうなご入居者さまの後ろ姿を見て、日頃と違う様子を見たように思った。
車椅子のまま乗降できるリフト車の操作も体験していただいた。

車いすを押したり、声をかけてくれたり・・・・

また、以前に施設ボランティアに来られていた生徒さんも駆け寄ってくれた。

再開にともに笑顔が溢れる。

対応して下さった10人組の男子生徒さん、ありがとうございました。
このような機会の快諾をしてくださった、校長先生をはじめ、担任の先生、出迎えや何かと細やかに声をかけ、対応して下さった先生方、ありがとうございました。そして生徒さん方、本当にありがとう。「しっかり勉強して立派になってね。」
帰り際、生徒さんと握手するご入居者さまの傍で言葉をおかけした。生徒さんは、はにかんだ表情を見せ、利用者さんはだまって目を細めていた。

わずか1時間足らずだったが、生徒さんの生き生きとした姿に、付き添いスタッフも感動しウルウルしてしまった。利用者はもとよりスタッフも良い時間を過ごさせていただいた。
私はここの学校の卒業生でもないし、保護者でもない。普通だったらこの文化祭に来ることもないだろう。しかし利用者さんのおかげで地元の高校生の活動を見て、感動をいただくことができた。「文化祭にお連れしたつもりが、連れてきてもらった。」介護を必要とする利用者さんだかからこそ、与えてくれた機会である。
今日のきっかけとなったご入居者のHさんは、お孫さんの琴の演奏に「こんな本当に来れるなんて…夢みたいやわ~」と感慨深げな様子だった。
生徒さんに車椅子を押してもらってニコニコ顔だったOさんは、実は外出を好まず、出かける前にも「行かなあかんのか!」乗り気でなく、二人がかりで車椅子に乗りしぶしぶの出発であった(帰園後はまずまずの表情)。
一人の方は機嫌よく文化祭に参加したもの、その日の夕方、険しい表情で「物を盗られてしまい辛い」、と事実でない物忘れ症状を訴え、心身の介護を必要とする日常に戻っていた。
高齢者の時間の流れは若い学生さんとのそれと全く違うのかもしれない。一瞬のきらめきは本人の記憶に残らないこともある。しかし一瞬がゆるやかな大河となり全うする。弱さも強さも、高齢者は兼ね備えている。歳を重ねるという修行により得とくできるものかもしれない。
ケアマネ 西村