ただいまご紹介にあずかりました。社会福祉法人黒潮園事務長の小林忠幸と申します。
建設経過報告ということですが、本事業の概要と合わせてご説明申し上げます。
地域密着型特別養護老人ホーム「クレール高森」は、入居29室・短期入所10室の計39室の全室個室の施設となります。建築概要は 地下1階地上2階建て、鉄筋コンクリート造 延床面積は2,118.22平方メートルの建物です。
私ども社会福祉法人黒潮園では中期事業計画において『地域を支える福祉システムの構築』を掲げ、クレール高森の建築に取り組んで参りました。
皆様、ご承知の通り、我が国では急速な少子高齢化の進行が大きな社会問題となっております。特に団塊の世代の方々が、高齢者となる2025年には、そのピークを迎えると言われています。
我が国の今後の高齢者を取り巻く課題として
①高齢者の重度化
②認知症高齢者の増加
③独居高齢者・高齢者夫婦世帯の増加の大きく3つのことが挙げられています。
法人中期事業計画『地域を支える福祉システムの構築』は、これらの多岐にわたる今後の高齢者福祉のニーズを、相互的・包括的に連携する施設整備を行い、住み慣れたこの新宮市、日常生活 圏域内においてサービスの利用が完結するよう目指すというものです。
既存の特別養護老人ホーム黒潮園は、要介護 重度者対応施設と位置付け、医学的根拠に基づくより専門性の高いケアに取り組んできました。
一方で、今後増加が見込まれる認知症高齢者や独居高齢者といった、中等度の要介護者においては、暮らしを尊重し、個々のプライバシーに配慮された個室の施設の整備が必要と位置づけております。
そこでこの度、新宮市の第5期介護保険事業計画で、事業者募集のあった地域密着型特別養護老人ホームの施設整備計画に、応募させて頂いたということです。
平成24年6月7日 新宮市役所にて事業提案のプレゼンテーションを行った結果、
平成24年6月28日に事業者採用決定の通知を頂きました。
ちょうど2年前のこの日から、クレール高森建築計画がスタート致しました。
設計士の選定は設計提案のコンペ方式にて行いました。
ちょうど選考期間に、新宮市ご出身で東京にて活躍されている益田一級建築士 設計事務所、益田滋子氏が帰郷されていた。というご縁からコンペに参加頂く運びとなりました。
複数の提案のなかで、この高森の豊かな自然環境を生かし、建物がその風景に圧迫感を与えないデザインと、福祉施設としての機能性に配慮された設計という点において、私たちのイメージを充分に網羅した、益田一級建築士 設計事務所の提案がひかり、設計をお願いすることに決定いたしました。
そこから、約1年間。設計の打ち合わせの場所を東京と新宮、そしてお互いの移動時間がその中間となる大阪とし、理事長と益田設計士が互いに行き来し、何度も何度も繰り返し練り上げてきました。
本計画のポイントは、まず「施設」という概念にとらわれない設計です。床をフローリングの浮き床工法とするほか、インテリアの造り込みを「住まい」の設計という視点から行っているということです。もちろん随所のデザインにもこだわっています。
次に、デザインだけではなく、ケアの視点から福祉施設としての機能性を、追求しているということです。トイレの手すりの位置や、各スイッチ類の高さ、車椅子のご入居者がいかに使いやすいか。また照明計画においても認知症の方が落ち着きを感じていただけるよう、特に夜間のライティングに工夫をしております。
また設備におきましては、大規模災害時に事業継続ができることを想定し、計画に検討を重ねてきました。
まずは「水」の確保です。この高森の地は山水が湧き出ています。この山水と雨水を地下タンクに貯め、トイレの排水等に活用する「中水システム」を採用しました。
次に「電気」の確保です。一般的に福祉施設や病院では、非常用の電源として自家発電装置を設置します。クレール高森に設置した自家発電装置のスペックは、280KVA(キロボルトアンペア)という非常に大型のものを設置しています。これは、非常照明だけでなく、すべての照明、そして空調まで稼働することができる規模となっています。
さらにライフラインが遮断(しやだん)されたとしても、最低3日間は通常の暮らしが継続できるよう、燃料を灯油とし、地中に5000ℓの貯蔵タンクを埋設しています。
このような設備を設けるにあたり、大きな投資が必要となりました。しかし、黒潮園のご入居者、短期入所も含めた110名、そして、このクレール高森のご入居者39名を合わせた約150名の暮らしと安全を守ること、また地域の拠点施設として地域に貢献する、という使命から、計画の実行を決断いたしました。
設計期間が6ヶ月と十分な時間は取ることができませんでしたが、何とか設計がまとまり入札を実施する運びとなりました。
平成25年4月18日 入札を実施するも、辞退が相次ぎ落札には至りませんでした。
そこで第2回目の入札を5月23日に実施し、この厳しい建築事情にも関わらず、夏山組 さまが工事を請け負って頂けることが決定しました。
内容が豊富で複雑な設計に、限られた工期、と大変難しい工事にも関わらず、現場監督を始め、施工業者が総力を挙げて工事の竣工に取り組んで頂きました。
年度末、平成26年3月31日までに、建築確認申請の検査ほか、新宮市、和歌山県による完了検査を終える必要がある本工事ですが、諸般の事情による工期の遅れにより、その完成が大変難しい局面を迎えることとなりました。3月に突入し、この地域でも類を見ない大突貫工事となり、時間との闘いが続きました。
時には工事打ち合わせにて、設計士と施工者、また私たちと施工者が喧々諤々と議論する場面もありました。
また、建築確認申請検査の直前、私たち黒潮園の職員10数名が作業着を来て現場を手伝うということもありました。
着工からの1年間、全てを語ることはできないほどの多くの苦労がございましたが、設計士、施工者そして私たちが一丸となって乗り越えてきた結果、何とか行政の完了検査を終えることができました。
そして本日、無事、竣工式を執り行うに至ったのは、ひとえに株式会社夏山組様を始め、益田設計士事務所様、ご関係者の皆様方、関係諸官庁の皆様方のご懇篤なご指導とご鞭撻を賜りましたお陰でございまして、まことに感謝の至りに堪えません。厚く厚く心からお礼を申し上げます。
また、工事期間中、近隣の皆様方に大変ご迷惑をおかけしましたことを、この場をお借りいたしまして深くお詫び申し上げます。
以上で、建設経過報告を終わります。