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クレール日記

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地域密着型特養日好荘スマイル

こんにちは。

第5期介護保険施設整備計画においてこの紀南地方の各市町村に地域密着型特養の整備が計画されました。新宮市では私ども社会福祉法人黒潮園がクレール高森、串本町は以前にご紹介した上野山にしき園、そして那智勝浦町には日好荘スマイルが計画されました。


昨年10月に開設された那智勝浦町に新たに建築された特別養護老人ホーム日好荘スマイルですが、完成披露された竣工式に出席させて頂きました。施設に戻ってその様子をスタッフに話をしたところ、是非、見学させて頂きたいという声があがりました。

そこで、日頃から大変お世話になっている日比なな理事長に相談をさせて頂いたところ… 快く受け入れて頂きました。



地域密着型特別養護老人ホーム日好荘スマイル
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敷地面積:6699㎡
建物面積:1781㎡
構造:鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造地上3階、地下1階
定員:29名(3ユニット)
設計・監督:株式会社アイ・エフ建築設計研究所
施工:株式会社ケイズ




実は見学に伺ったのは昨年の9月29日。
(まだ日焼け姿に半袖のシャツをきていた頃です)
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このブログに紹介させて頂こうと原稿を途中まで書きつつも完成させることができないままでして… 遅くなりましたが今回ご紹介させて頂きたいと思います。









建物の外観はいたってシンプルな感じです。

クレール高森と同じように、従来型施設である特別養護老人ホーム日好荘那智園のすぐ隣の敷地にサテライト型として建てられています。
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施設病院とは一線を画するモダンな外観で存在感を際立つものとするクレール高森とは違い、既存特養とマッチングに配慮されているのでしょうか?特別新しいという主張がなく、飾らない自然な存在感が印象的です。

設計は大阪にあるアイ・エフ建築設計研究所さんです。吉羽逸郎設計士は竣工式の中で、「建築物の最も大切なことは、デザインや飾ることを先行するのではなく、そこに住む方を雨、風さまざまなことから守る安心できる建物をつくることである。」と話されていたことが印象的でした。




夜勤の勤務体制(2ユニット1名夜勤)や建物の設計の効率を配慮すると、地域密着型ユニット施設では、ショートステイを併設して偶数ユニットで計画するケースが多いですが、日好荘スマイルは定員29名の3ユニット(奇数ユニット)で構成されています。

1階平面図
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2階平面図
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この3ユニット(奇数ユニット)のため基本レイアウトは1Fに1ユニットと事務所など共用部を、2Fに建物左右にユニットを配置し、浴室や介護材料室など機能的なものは各ユニットに設置せず建物の中央で共用とする設計となっています。


効率的に延べ床面積を抑えるレイアウトパターンとなっています。(このあたりは建築コスト削減にも大きいですね)




この地域密着型特養は利益性の低い事業と言われています。ユニット内を見学させて頂くととてもコンパクトにまとめられており、建築コストを抑える工夫がよくわかります。

このあたりは各法人の施設の位置付けや方針が大きく影響するところですね。





玄関
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エントランスを抜けて広がるロビー・多目的室
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ユニット玄関(ユニット入口)
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扉は住まいの玄関を模するような飾りをなくしたシンプルなカームドア


コンパクトにまとめられたユニット
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ローカの左右に居室があり、写真中央右の共同生活室(リビング)を囲み、導線が短いコンパクトなユニット


共同生活室
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建物の1スパン(柱から柱まで)におさめる工夫をされているからか…やや狭い印象ですね。

施設設置基準では1人あたり2㎡とあります。1ユニット10名で20㎡。畳1帖≒1.65㎡(地方によって若干異なる)ですから約12帖強のリビングが法で定められる広さといえるでしょうか。しかしテーブル・椅子を置いてその間を、高齢者の方が車椅子を自由に操作出来る有効寸法を考えると…この法定面積では結構きついんですよね。

共同生活室の設計はご入居者の想定を歩行自立、車椅子で自走とするのか、または車椅子介助での移動なのか?また家具の大きさやレイアウトを先に想定して設計する必要があります。

このあたりは「ご入居者の暮らしと自立支援」という点から重要なポイントになってきますね。




キッチン周り
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ここは働くスタッフの作業性を左右する部分です。見学させて頂いた女性スタッフは興味津々。いろいろと物色中です(笑)。
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正面のキッチンに置かれた四角い機器。なにかなぁ・・・電子レンジ?

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卓上型の食洗機だそうです。こんな商品もあるんですねぇ~。

一般家庭で多くて5人家族でしょうか…そこに親戚も集まって10人? 1ユニットでは常時、10名分の食器を扱うので一般家庭用食器棚では収納力が不十分となります。何よりユニット施設の設計で配慮する点は、ユニットで盛り付けをするのであればキッチンの広さですね。1ユニット分の食材をお皿に盛り付けするには結構な作業スペースが必要になります。キッチン周りはやはり狭い印象ですかねぇ。




居室
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床材はフローリングではなくクッションフロアーを採用していて、暮らしの設えというより清潔感があり衛生面が重視されています。



面白いのはその入口の扉。
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居室入口の開口寸法がベッドの出し入れができないということから、建築中に大きな議論になり、設計を一部変更して上吊りのローリング式回転扉としたということです。(ちなみにクレール高森はベッドを立てないと入りません)
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私たちも居室内のトイレの使い勝手を検討する際に、できるだけ入口ドアの開口を広げる工夫として検証した案の1つにありましたが、高齢者の方の目線から使い勝手を考慮すると、日常的な動きではないことから不採用になった方法です。

居室洗面台
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トイレはユニットに4ヶ所、居室扉と扉の間に車椅子対応の共用トイレが設けられています。
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次はお風呂です。
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このブログの過去の記事の検索でも、施設の浴室設計シリーズをご覧になられている方が多いようで、皆様も関心が高いようです。



建物中央に1Fは重度介護者に対応する特殊浴槽
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2Fには個浴槽を設置されています。
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暮らしの場として1つのユニットでケアが完結することを目的とするユニットケアでは各ユニットに1ヶ所ずつ個浴槽を設置する設計を推奨されています。(当然、建物面積増、設備も含め建築コストUPの要因となります)

私たちも悩みましたが、各ユニットに浴室を設けています。しかし効率を優先するのであれば、従来型施設の設計にあるように1ヶ所でかつ、日好荘スマイルさんのようにケア導線の中心に位置するレイアウトがいいですね。

私たちはあえて考え方を従来型特養ケアから切り離すためにも、各ユニット4箇所に浴室を設計しましたが、実際に運用してみると1フロアー2ユニットに1ヶ所の浴室でも全く問題ない感じです。
(ある意味そのメリットもあると感じています)

原則、マンツーマンケアを唱っているユニットケアですが、私たちは個浴の導入においてはADLレベル(身体能力)に応じて、2人介助での入浴も行っています。そうなると実際にはフロアーの片方のユニットの浴室は使用しないで運用することになるんですよね。




ここで勉強になったのは個浴槽での介助方法です。

トイレにしてもお風呂にしても、手すりの位置や福祉用具の活用はとても重要です。介護の方法など施設によってその考え方や特色は異なる部分です。

クレール高森の開設前には初めて取り組む個浴での入浴をどのように進めるか、東潔明ユニットリーダーと検討を重ねて準備に取り掛かりましたが… 日好荘さんは従来型特養にも個浴を導入していたため、そのノウハウから手すりなどを設置しているということです。
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実際の使用方法を詳しく解説して頂いた楠本介護長
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入浴介助の手順も私たちが行っているものとは違い、参考になりました。
是非、また機会を頂けましたら詳しく勉強させて頂きたいと思います。


このように施設のつくり(建物)はケアの内容や入居する方の暮らしに直結するとても重要なものです。各施設(施主)と設計士の考え方が大きく左右する部分ですね。




これだけ、ユニットや浴室などをコンパクトに設計しているにも関わらず、建物全体の延床面積が1781㎡あるのはなぜかなぁ… と思いつつ3Fに上がると・・・
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オーシャンビューの広い多目的室がそこにはありました。山側にも多目的室がり、フロアー全体が多目的室といった感じです。

3階平面図
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多目的室前のテラス
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このバルコニーからは、目の前の那智湾で打ち上げられる花火大会が鑑賞できます。

クレール高森も太平洋を眺める高台にありますが、日好荘さんはその海との距離が近いんです。個人的にはとても羨ましいロケーションです。
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私、眼下にある港でよく釣りをします。そして右に広がる那智ビーチは夏に子供とよく遊ぶ場所です。そして左手の海岸線にはビッグウエーブで有名なワイルドロックなど日本屈指のサーフポイントがあり、大きな波が立つと私もチャレンジしている場所です。
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もし僕が入居したら、この色々な表情をなす海を毎日飽きずに眺めているでしょうねぇ~(笑)。




本当に素晴らしいロケーションです。






全国的に施設整備が進んだここ十数年ですが、この和歌山県南部の紀南地方では新しい特養の整備計画はされないまま経過しました。

近年、「高齢者福祉は施設ではなく在宅」という国の政策に大きな転換があり、サービス付き高齢者住宅の整備に力が入れられ、入居待機者が多いにも関わらず新たな特養の建築は不要との見解が示されています。

この第5期介護保険の施設整備計画が、当地方に整備される最後の特養となると思われます。そう考えると各地域に建築された新特養の意義はとても大きなものだと言えます。

施主の求めるものと、設計士さんが一体となって形となる建物です。どの建物にも個性や色があり唯一無二なものです。

クレール高森も含め、この第5期計画で誕生した新特養は地域福祉の担い手として、これから永き歴史を刻んでいきます。




最後になりましたが、開設前で大変忙しい中、見学を快諾いただきました、社会福祉法人紀友会日比なな理事長、施設案内をいただきました楠本介護長に心より感謝申し上げます。
by kuroshioen | 2015-01-20 20:22 | Comments(0)