黒潮園は建築基準法の上では
既存不適格建築物と言われます。
何となくいい聞こえ方ではありませんよね。
どういう事かと言いますと… 現行の建築基準を満たしていない建物ということです。
建築基準法は昭和25年に施行されました。それ以降、社会環境の変化、建設技術や住宅性能の進捗に合わせ、何度も改正が重ねられてきました。例えば耐震基準。被害の大きな地震がおこる度にその被害状況が調査され、地震に対する建物の安全性を高めるための構造の規定の見直しが行われているんです。
この耐震基準は1981年(昭和56年)に大きく改正され、以降は新しい基準となりました。
黒潮園が竣工したのは昭和52年(築37年)。ですから、この改正後の新しい耐震基準に適合していないことになるんです。このように建物を建てた時点では、法令の規定を満たして建てているのですが、その後の法令などの改正により適合しなくなった建物のことを、既存不適格建築物という訳です。
(違法建築物とは、建てた当初から法令に合っていない建物を指すので違法ではないんですよ。)
よく古い学校などで、建替えや鉄骨で大掛かりな補強工事が行われているのはこの関係からなんですよね。
では…黒潮園も建て替えるのか? 耐震補強工事をするのか?
10年ほど前に、理事会(前執行部)ではかなり議論となりました。将来の法人の行方を左右する大きな判断が必要になります。ちょうど市街地の土地が売りに出されたことにより、用地購入に至ったものの結論が出ず、そうこうしているうちに、国の施策は全室個室の小規模の地域密着型特養の整備を進める方向となり、従来型多床室特養の建築補助金が出なくなってしまいました。
そこで、当時の施策に乗る形で地域密着型特養の建築計画が持ち上がりました。しかし、本体の老朽化した黒潮園をどうするのか結論が出ないまま新規事業を手がけることに更に意見が割れ、より議論は複雑化しました。そして最終的には新規事業計画も建替え計画も全て白紙となったのです。
そして私が法人の舵をとることになった現在・・・
まず黒潮園の耐震検査を実施したところ、居室の並ぶ建家(B棟)は全く問題なく、事務所、厨房、浴室などのあるA棟の一部補強で新耐震基準をクリアーすることが分かりました。
その決断は「耐震補強を実施する」です。そして経営効率を考え離れた敷地ではなく、拠点をこの高森の地とし、これからの新たなニーズに応える、新たな個室の特養を計画するということです。
このような深い執行部での議論の末、この7月に地域密着型特養クレール高森が完成しました。そして、現在、黒潮園のリフォームとこの耐震補強工事を行っているのです。
耐震補強の種類
1.建物の耐力を増大させる方法
・
鉄骨のブレースを増設する。
・壁を増設する。
・壁の厚さを増す。
2.柱のじん性(粘り強さ)を向上させる方法
・十分な帯筋や溶接金網を施したうえ、柱を太くする。
・鉄板やカーボンファイバーなどを巻く。
・
腰壁やたれ壁と柱の縁を切り(スリットを設け)、柱のせん断破壊を防止する。
色々と耐震補強の種類がありますが…黒潮園の場合、1階部分に3箇所、
鉄骨ブレースによる補強。あとは各階数箇所に
腰壁をカットするスリット工法を行うことで、A棟も十分な耐震強度がえられることになります。
1階裏洗濯室廻り
1階浴室東壁面
設計士さんの工夫で、窓の景色や、入口ドアの妨げにならないように鉄骨ブレースが組まれています。一見ごついですが、これだけで済んだのは幸いです。
当時、黒潮園の改革に着手するという使命を頂き…私が着任して5年。
職員の皆さんに要望や問題について全面的にアンケートを実施しました。 ケア内容から労務環境、そしてプライバシーの問題や使い勝手、老朽化など施設ハード面の問題など、職員からの小さな意見から大きな意見まで多岐に渡る課題を抽出し、中期ビジョンと年度事業計画を明確化し一つずつ歩みを重ねてきました。
今年はその一つの終着点、答えを出す年となります。
事業計画のテーマは
『未来に向け輝き続ける法人を目指して…』です。
改修を含め総工事費2億円強というこの工事。福祉施設の耐震補強工事と言えども行政による補助金は一切出ません。全て法人の自己資金からの出資です。
しかし、老朽化した黒潮園がこれから長い将来にわたり快適で安全に暮らすことができるよう改修すること。そして地域の雇用の場として、魅力的かつ働きやすい環境の整備は、ともに地域に貢献する法人として、今まさに着手すべき課題と言えます。特に既存施設黒潮園の改修は、新しい施設「クレール高森」に入所者さまが一時的に移って頂くことで実現できる計画です。この機会を逃すと、入所中の施設の大規模な工事は事実上不可能と言えます。
私たちは法人設立以来、変わらぬ目標として「地域に貢献する法人」を目指してきました。今、求められているものはこの先、将来を見据えた法人の在り方・ビジョンであり、決断と行動力です。しっかりとした経営戦略です。
今年度のクレール高森の建築、そして黒潮園の改修工事と非常に大きな出費となります。この経営戦略、この決断は、福祉施策の転換と高齢者の減少(当地方)、人材確保や事業所の競合など福祉事業の経営もいよいよ難しくなると言われるこの先… 20年後でしょうか? その時はじめてその真価が見えてくるものと思います。
そう強い信念を持たなければ経営者ではありません。
個室と多床室の両方を選択できる特養。
そしてともに綺麗で安心して過ごすことのできる住環境。
そして携わる職員が明るく、気持ちよく働くことのできる魅力的な施設
すべては
『未来に向け輝き続ける法人を目指して…』です。