こんにちは。
前回、窒息対応 『ハイムリック法』という記事にて、新宮消防署救急隊をお招きした施設内研修会の様子をお伝えしました。
窒息対応 『ハイムリック法』
リンク:
http://kuroshioen.exblog.jp/24520439/
施設におけるご入居者の安全なケアの提供において、急変時の対応力はとても重要です。施設の一部の熟練した職員だけが出来るという事では意味がありません。
という事で、職員に周知する研修は2回実施しています。
その第2回勉強会の様子から…
皆様が大変興味を持たれている、『窒息時の掃除機による吸引』の問題を少し紹介します。
その前に・・・
つい先日。クレール高森のご入居者が喉を詰めました。
朝食時です。
ちょうど1名のスタッフがリビングの見守り担当という状況です。
気付けば目の前のご入居者さまが苦しまれていたそうです。
背中を叩くも改善されず・・・
ご入居者の苦しむ様子はさらに悪化。
そこで周囲に窒息していることを伝え助けを要請。
聞きつけた東キヨ主任が手動式吸引器「エマージェンシー・アスピレーター」を取りに走り・・・
その間に駆けつけた平根相談員が、先日実技練習をしたばかりの腹部突き上げ法『ハイムリック法』を施行。
1回、
2回、
繰り返し施行するも、一向に解消されず・・・・
いよいよ顔色は真っ青に。
必死に背部叩打法とハイムリック法を繰り返し実施し・・・
7回、
8回、
ご本人の身体が浮き上がる程の力を加えた際に、
ポンっと、ピンポン玉より少し小さいくらいのパンの塊が吐き出されました。
実施した平根相談員もしばらく体の震えが止まらなかったと話されていました。
「正直もうダメかも… 救急車か。」と諦めかけた時、この気道内異物の除去が成功したということです。
その後、ご本人の顔色は戻り…
窒息事故が回避されました。
そして、内蔵を傷つけている可能性があるため、嘱託医に状況を報告し指示を仰ぎました。
この対応については、救急隊員からも大変褒めて頂きました。
ハイムリック法でだめなら、背中叩打法と交互に実施することが推奨されています。
平根生活相談員は、ちょうど数日前にこの研修会第1回目に参加したばかりでした。
今回の第2回も参加です。
ではここで、近くにある掃除機を持ってきて…
口に突っ込み、スイッチON。
この対応だったとしたらどうなのでしょうか?
施設という環境で、介護職という専門職の選択する手段として、第一にこの方法を選択するという事は、これまでの窒息事故の裁判の判例の傾向をみると、厳しい見解となる可能性が高いでしょう。
介護職のプロ「専門職」としての見解水準が近年とても高くなっています。
求められているのもが、家庭介護のレベルではダメということです。
特に、この選択で成功すれば結果オーライですが、何らかの事故に至った場合は過失に相当するのか難しい判断となるでしょう。
前回の施設内研修会でも職員から、救急隊員にこの「掃除機の使用」について質問がありました。
そこで今回の研修では、あるデモをしてくれました。
実際に掃除機を用意し・・・
ペットボトルを肺に見立て、
スイッチON!!
どうなると思いますか?
・・・・・
中の空気が吸われ…一瞬にしてペットボトルがくしゃくしゃになりました。
実際に目の当たりにすると、結構と衝撃的なデモです・・・。
実は、これが怖いんです。
下手すると、肺胞(気管支の最末端分枝に続く,半球状の小さな嚢)を傷つける可能性があるのです。
近年の掃除機の吸引力は相当強いため、もし、どうしようもなくて掃除機を使用するのであれば、せいぜい1~2秒程度とする必要があります。
正式な論文として、窒息時の掃除機使用の善し悪しが明記されているものは中々見当たりませんが、窒息リスクマネジメントを「掃除機使用」とされている施設の方…是非、考えてみて下さい。
どのような考え方をするかは…その施設次第ですけどね・・・・。
第2回目の勉強会では、黒潮園のスタッフのレベルが高いという事で、このような救急救命コース上級編で学ぶことを教えて頂き、とても勉強になりましたね。
解剖学の解説。
もちろん。ハイムリック法練習マネキン『チャーリー』も活躍。
熱心に質問するスタッフ
最後にもう一つ、介護現場でよく見られる間違いについてお話しをしたいと思います。
喉に指を突っ込んで掻き出す。
もしくは嘔吐反射を使って、オエッて吐かせる。
という対応です。
ここで、よく考えて頂きたいのは、実際の喉の構造(解剖学)です。
実際に異物が気道を塞ぐ咽頭(喉の奥)は、皆さんが思っている程、手前ではないという事です。
ちょうど、救急隊員さんの荷物の中に模型があったので、ちょっとお借りして・・・ パシャっと撮影。
上顎がない状態ですが、このアングルが口を開けたときに自然に見える様子ですかね。
大きく口を開けてもらって、これが喉の奥を見る精一杯でしょうか?
何が言いたいのかといいますと…
窒息物を指で掻き出すということは現実的に有り得ないということです。
気道を閉塞には至らず、あくまでも口腔内に突っかって、飲み込めない状況で苦しんでいる方でしたら、口の中の食べ物を目視して掻き出すことが出来るかも知れなせんが、完全に窒息に至っている状況では逆に喉の奥に異物を押し込んでしまい、より一層、気道閉塞を強めてしまう可能性が高いのです。
実際の気道閉塞(異物)
こんな奥まで指が届きますか?
ですから、窒息対応で「指で掻き出す」も間違いです。