「キザミ食」「ペースト食」は嚥下食ではない!?皆さんどう思いますか?
私がリハビリの分野から介護現場に携わることになり、
先ず、驚いたのが…
「嚥下障害があるので、キザミ食にしています。」
「誤嚥が心配なのでミキサー食を提供します。」
というやりとりです。
嚥下障害にミキサー食。キザミ食。
これは介護現場では何も違和感のない事ですよね。
しかし、これがそもそも間違いなのです。
正しくは、「キザミ食」は嚥下障害ではなく歯がない方に必要とする食事形態です。
このパラパラして食塊形成(食べ物のまとまり)がされにくいキザミ食は嚥下障害のある方には、逆に飲み込みにくく、誤嚥のリスクが高くなると言えます。
では「ペースト食」。これこそ飲み込みやすい食事形態と思いますよね。
このペースト食(ミキサー食)を手のひらにのせて、手を傾けてみてください。とろーっと流れていくと思います。確かに喉の奥に流し込みやすい食事形態です。しかし、一方ではこのドロッとした感じの物性により付着性があり、手にこのペースト状のものが残ってしまうでしょう。
これが問題なのです。一度にしっかりと飲み込めない等、嚥下機能が低下している場合、ペースト食は咽頭残渣として喉の奥に溜まってしまう可能性が高く、これが気道に入ってしまい誤嚥性肺炎となる場合があるのです。
(これを回避するために『交互嚥下』『複数回嚥下』といった介護技術があるんですけどね)
当時、観察力がある介護職員から「嚥下が悪いという事でペースト食に変更したら、逆に喉のゴロつき(痰がからむこと)が多くなった。」という声が聞かれていました。
実際に嚥下食としてはツルッとした食感のゼリー質のものが最も適するのです。
病院で食事のリハビリをする際には、先ずこのゼリーによる嚥下の練習から開始し、食事摂取がができるように訓練をします。
このように介護現場ではどこに行っても「キザミ食やミキサー食は介護食」ということが、何の違和感もなくスタンダードとなっています。
いつからこのような間違いが当たり前と言われているのか?
全国津々浦々どこの介護現場でも共通の認識。ここまで浸透しているなのはなぜ?
大変、疑問に思いましたね。
厨房改装に向けて新調理法(クックチル)を検討していた時、先進的に導入している施設に見学をお願いしたことがあります。
そこで、提供する食事形態の割合を尋ねたところ…
「常食の提供は10%ちょいですね。あとはキザミ食とペースト食です。」
という答えが返ってきました。大変衝撃的でした。
(私たちのの施設では約60~70%の方が常食を食べられています)
高齢者の食事のトラブルは嚥下障害ではない!?次に、気づいたことは… 当時、カンファレンスにて「嚥下障害があるので診てもらいたい」と介護現場からあがってくるご利用者の大半は、厳密に言うと嚥下障害が無いという事です。
どういう事かと言いますと、最後にゴックンと飲み込む嚥下反射(咽頭期という)に問題があるのではなく、そこに至るまでの噛んで食べ物を砕く(準備期)、舌でもぐもぐして、砕かれた食物を上手にまとめて喉の奥に運ぶ(口腔期)という事に何らかの問題があるという方が大半だったということです。
そこで気づいたことが、誤った認識で嚥下食としてキザミ食やペースト食を安易に提供していることが、高齢者の口腔機能を低下させることにつながり、食事摂取の問題を助長しているという事です。
加齢とともに歩きにくくなってきている…
危ないから歩かせないように、車椅子に座らせておこう。
これは本人の歩く能力を奪うことになります。
このようなリスクへの保身的なケアは、今はもう多くの施設では行いませんよね。
(まだそんな施設もあるかな?)
食事が進みにくくなっている… ちょっとムセがある。
食事形態をキザミ食、ペースト食にしよう。
これは歩ける人を歩かせないことと同じことです。
「食べる」という事も、歩行と同じで噛んでもぐもぐするという口の運動(口腔運動)が大半なのです。少しでも歩く機能を維持しようと考えることと同じで、口腔機能を保つためには「少しでもお口から形のあるものを食べて頂こう」と、しっかり噛んで口の運動を必要とする「常食」を提供することが重要なのです。
特養ケアでは神経学的な嚥下障害はほとんど見られないこのように私たちは6年程前から、できるだけ「ご馳走を食べて頂く」、安易に食事形態を落とすのではなく、個別の状況を把握し「できる限り常食を提供する」ことにこだわった食事ケアに取り組んでいます。
介護力向上講習会の講師である国際医療福祉大学の竹内孝仁教授も同様のことを指摘し「常食化」への取り組みを推奨されています。これは何も特別な事ではなく、竹内先生はリハビリ専門医なので、リハビリ的な視点から介護現場を見た課題は当然同じことになりますよね。
しかし、実際にここまで「キザミ食」や「ペースト食」が安全な食事形態という認識が強く、かつ常にリスクと背中合わせの食事ケアを、根底から変えることは容易ではありません。
誤嚥や窒息事故のリスクへの不安感。
生命に関わることであり、どうしてもリスクへの保身的な考え方になってしまう。
そして専門知識に乏しく、経験則に偏ったケアという質の低い介護現場。
これら誤った食事ケアの実態がある以上、実現は難しいでしょう。
特に窒息事故によりる生命に関わるリスク。
これが大きく憚ります。
そこで、以前ご紹介した
『エマージェンシーレスピレーター』の導入や、リスクマネジメント研修など基盤整備を行い、施設全体の方針として明確にし、介護職員が自信を持って取り組めるよう進めています。ここが最も重要な点なのです。
その詳細として…
窒息事故における食事形態の選択と過失の有無を、実際にあった裁判事例を挙げて解説し、「常食化」に向けた「自立支援の介護」といった、リスクチャレンジのケアに取り組む為には何が必要か・・・・など。
次回は、具体的に
『誤嚥・窒息のリスクマネジメント』という記事を書きたいと思います。